『100000ぐらむふとったねこ』


 

 ――西山さん、すいま(沈黙)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 ――飛べないブタはただのブタだ。
                     「紅の豚」
 
 
 
 

          『100000ぐらむふとったねこ』
 
 
 

                          作者 東海英志
 
 
 
 

 ――という訳で地響きがすると思って戴きたい。
「うわ、またこれか」「いい加減に作品を汚すのは止めなさい」
「氏ね」「逝ってよし」とか言いたくもなる人も沢山いるだろうが、
 何せ一周年の記念に俺が送れるものなんてコレしかないんだよ!(逆切れ)
 

 ちなみに「紅の豚」の引用には全く意味が無いことを付け加えておく。
 

 ――柏木梓は自問自答を繰り返していた。
  . .
 何故こうなってしまったのだろう。
  . .
 誰がこうしてしまったのだろう。

 考えても、考えても、答えは出ない。

 ――自分のせいではない。

 自分のせいではない、柏木梓はそう繰り返す。
 千鶴姉も、自分も、そして初音も、何ともないではないか。
              . . . . .
 ではどうして彼女だけがああなってしまったのか。
 彼女と、私達との違いは――たった一つだけ。
 梓は両足を腕で抱えて座り込み、顔を伏せた。
「耕一……」
 助けてくれるとすれば、彼しかいない。
 そしてまた、彼がその原因を担っている可能性だってあるのだ。
 留守電の録音に早く気付いてくれれば良いが――

 ――そしてまた、地響きがする。
 帰って来た、彼女が。
 今日も――何時ものように料理を作らなければ。
 ふらふらと梓は立ち上がった。
 今日も――料理を。
 
 
 
 
 
 

 柏木耕一は今や馴染みとなった柏木邸の門の前に立つと、坂道を走って登っ
たために噴き出た汗を拭った。
 ――あの鬼騒動も今や懐かしい想い出だ。
 去年の夏、あの鬼騒動を発端として、自分の過去を、そして前世を思い出し、
楓ちゃんと結ばれ、ついでにふきふきして、あまつさえ騒動が終わった時にゃ
そりゃもう口に出すのも憚れることをバンバン……話がズレた。
 とにかく、あれから半年くらい経っていて、楓エンディングアフターという
ことさえ解っていればオーケー。
「あ……耕一お兄ちゃん、おかえりなさい」
 初音が玄関を開けて出てきた、だがいつもの明るい笑顔ではなく、何か心配
ごとがあるような、そんな浮かない顔だ。
「初音ちゃん、ただいま。……どうしたの?」
「う、うん。何でもないよっ、あがってあがって」
 そんな初音に首を傾げつつも、耕一は懐かしき柏木邸にお邪魔した。
「お、耕一! よ、よく来たね」
「おう、梓……。 ? 梓までどうしたんだ? 様子がおかしいぞ」
「な、何でもないよ! えーっと、それより夕飯の支度しなきゃ!」
「あ、わたしも手伝うよ!」
 梓と初音が慌てたように廊下を走って、台所に向かおうとした。
 その時、耕一は何気なく
「あれ? 楓ちゃんはどうしたの?」
 そう言った。
 梓と初音の動きがピタリと止まる。
「え、あ、その」
「う、えっと、あの」
「……?」
「耕一……落ち着いて話を聞いてね」
「あのね、耕一お兄ちゃん」
 二人は互いに顔を見合わせ、頷くと覚悟を決めたかのように話し始めた。
「「実は……」」

 その時だった。
 
 

「たっだいま〜♪」
 
 

 やけに脳天気な明るい声で、
「お、楓ちゃんの声だ。お帰……」
 梓と初音は気まずそうに眼を逸らし、
「あ、耕一さん、来てたんだ! お帰りなさいっ」
 ついでに言うと俺も覚悟を決めた。
「え」
 
 

バシュタールの惨劇。
 
 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!?」
 
 

 これまでのシリーズと同じく、柏木耕一もショックに耐えきれずに、卒倒す
ることを選択した。
 
 

「……それで、どーゆー訳なの?」
 布団に寝かされた耕一が、自分の頭の氷嚢を取り替えようとした梓と初音に
尋ねた。
「それがさ……わたし達にも解らないのよ」
「千鶴さんの料理とかじゃないの? 例によって」
「それならわたし達も巻き込まれているよぅ……」
 確かに。

 とにかく、話によると楓は三ヶ月ほど前のある日、突然何の前触れもなく、
太ってしまったそうだ。
 ショックのせいか寝込んだ楓に、千鶴は咄嗟の判断でハンテンダケを食べさ
せた。
 それでまあ、とりあえず楓は元気を取り戻し(ってゆーか反転しているだけ)
今に至るらしい。
「そうか……それで電話をする時の楓ちゃんはあんなに明るかったのか……」
「少しは気付け、オイ」
 梓が思わずジト目でツッコんだ。
「いやあ、そんなに俺からの電話が嬉しかったのかと」
 あっはっはと笑いながら照れる耕一。

「――そんな悠長なことを言っている場合ではありませんっ!」
 ばばーん、という効果音と共に何故か真っ黒い作務衣を纏った柏木千鶴が、
襖を勢い良く開いて登場した。
「――この事件、きっと妖怪ならぬ妖エルクゥの仕業です。憑き物を落とさな
きゃ駄目なんです!」
 唖然とする三人を尻目に千鶴は話を続ける。
「――さあ、寝ている暇はありません耕一さん、否、榎木津耕一さん!」
「え、榎木津さん? それにさっきから台詞の前にあるその「――」は何?」
 初音が耕一に耳打ちする。
「千鶴お姉ちゃん、最近京極夏彦の作品に凝ってて……」
 俺はあの年中躁病みたいな探偵役か。んじゃ、残りの二人は……
「さあ、関口初音! 木場梓! 四人でこの事件解決に出発よ!」
「だ、誰が木場だっ!!」
「お姉ちゃん、酷いよぅ、わたしあんなに暗くないよぅ」
 と言うかそもそも京極堂はそんなキャラではありません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「――という訳であなたが犯人よっ!」
「何でーー!? ってゆーか貴様人の家に勝手に怒鳴り込んだ上に鬼の力全開
解放で飛びかかってきてアラミド繊維とチタニウムを焼結させた繊維で縛るな
んて有りか!?」
 ちなみにここは柳川裕也が貴之と共同生活しているマンションである。
「わたし達の楓を元通りにしなさい! 失礼。――わたし達の楓を返しなさい」
「とりあえず人の話を聞け。頼むから」
「――いいですか? 柳川さん、あなたはこのままだと妖怪絵瑠狗鵜になって
しまうのですよ?」
「だから、聞けって貧乳女」
 ぷち。
 何かが切れる音がした。
 

「――という訳で柳川さんは犯人ではなかったということですね……ううん」
「なら、あそこまでギタギタにしなくても良いと思った……」
「――何か言いました? こう……もとい、榎木津さん」
「いや、それで千鶴さん、他に事件についての関係者の心当たりはあるの?」
「はい、もう一匹心当たりがあります」
「……匹?」
 

 ――雨月山(だっけ?)
「お、お姉ちゃん、もしかしてここって……」
 四人は何故か洞窟に来ていた。
 周囲が急速に冷気に包まれ、
「恨めしや……恨めしや……次郎衛門」
「――とゆー訳でズバリあなたが原因ね!」
 千鶴が真っ直ぐ指差した相手は朧気に漂っていた。
 つまりは亡霊。
 少しは怖がってやれ。
「何だ……リズエルか……今更何をしに」
「――惚けるのはいい加減になさい! 楓を太らせる呪いをかけたのは貴方ね!」
「……は?」
 リネットの裏切りにより、野望半ばにして倒れ、恨み伏すこと数百年。
 以来、この洞窟に霊となりながらもじっと時を待ちて幾星霜。
 そしてついに復讐の刻がきた、今こそ彼の一族に呪いを与えん。
 ……と思っていたら突然現われた以前の知り合い兼仇敵に、妹を太らせたと
怒鳴り込まれた俺様の立場って一体。

「し、知らん……何で俺がそんな事をしなければならんのだ」
「――ええい、だまらっしゃい!」
 周囲の気温が零下まで下がった。
 そーいやこいつってリズエルの頃から、人(鬼)の話を聞かないところがあ
ったよな……。
 ぼんやりとダリエリは昔の回想に耽っていたが、気を取り直して、
「だから知らないって。何が悲しゅうて俺がそんな呪いをかけなきゃならんの
だ」
 いつしかやたらと砕けた口調で話すダリエリ(幽霊)。
「そうだよぅ、この鬼さんはそんな事しないと思うよぅ」
 初音の訴えに、ようやく考え始める千鶴。
「そうね、考えてみれば数百年の骨髄の、それでいてみっともない負け犬のク
ソ野郎の恨みの復讐方法が『楓を太らせるだけ』って言うのもおかしな話よね
……はっ、まさかっ!!」
 千鶴がダリエリの襟(そんなもの存在するのか?)を掴んで、がくんがくん
と揺さ振る。
「な、何だ!!」
「わたしの胸が小さいのも梓がレズになったのも初音が未だに小学生に間違え
られるのもみんな貴方の呪いのせいね!!」
「違うわぁっ!」
 こう言うのは「自分の事は棚に上げて」というのだろうか。
 あ、「責任転嫁」か。
「ってゆーかさりげにレズ言うなっ!」(木場化が進む梓)
「千鶴お姉ちゃんがいじめるよぅ……」(関口化が進む初音)
 

「あのなぁ! 俺はお前等一族の身体及び精神の欠陥まで関与しない!
 リネットがガキっぽいのも! アズエルが同性愛者なのも!」
 次の言葉がマズかった。
「そして、お前が相も変わらず貧乳だってこともだ!」
 
 
 

 瞬殺無音。
 
 
 

「――ふぅ、事件は振り出しに戻ってしまいましたね」
「いや、最初から進展なんてしてなかったけど」
 ダリエリを百回生まれ変わっても復讐できないほどボコボコにした後、一行
は体勢立て直しの為に、柏木邸へと戻ってきていた。
 結局何も進んでないどころか、三人のトラウマが増幅した辺り、傷口は広が
った模様。
「あれ? 楓は?」
「さあ、わたしは見なかったけど……」
 ハッと千鶴が弾かれたように立ち上がった。
「まさかっ! あの娘、ハンテンダケの効果が切れたんじゃ……」
 蒼ざめる一同。
「急いで探しに行かないと!」
 慌てて耕一が廊下を駆け出して行ったその時だった。

「ただいま……」

 馴染んだ声が玄関から聞こえてきた。

「あっ、楓ちゃん!」
「楓!」
「楓お姉ちゃん!」
 

「……? どうしたの、皆?」
 

 楓はきょとんとした目付きでこちらを見た。
 楓は――あのたぷたぷとした頬ではなく、以前のスラリとした頬に戻ってい
た。
 二の腕も、足も、それから――胸も。
 以前の楓と変わりない。
 ただ、お腹が――お腹だけが少しだけ膨らんでいるようだった。
 

 耕一はぺたんと廊下にへたり込んだ。
「よ、良かった……元に戻ったんだ……」
「楓お姉ちゃん、良かったねぇ……」
 初音は楓に抱き着いておいおいと泣き始めた。
 楓は困惑した表情を浮かべながらも、抱き着いてきた初音を優しく撫でる。
「それで……一体全体どういうことなの?」
 梓がその場にいた全員の気持ちを代弁するかのように、言った。
「あ、ごめんなさい。ようやくアレが収まったから産婦人科に行ってて……」
「産婦人科?」
 何故、そんな所に?
「耕一さん」
 楓は耕一の方に向き直って、ニコリと微笑んだ。
 

「三ヶ月みたいです」
「三ヶ月って……何が?」
「えっと……」
 楓は頬を赤らめた。
「赤、ちゃんが……です」
「……」
「……」
「……」
「……」
 

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?」」」」
 
 

 楓の説明によると「エルクゥは妊娠すると一時的に太る」→「その後は元に
戻って人間の妊婦と同じようになる」だったのだが、何故か自分に限って(多
分、ハンテンダケが特殊な作用を及ぼしていたものと思われる)デブ期間が長
かったらしい。
 寝込んだのは、でぶになった際の身体の負担が大きかったそうな。
 嗚呼、何てスタンダードなオチ。
 ともあれ、こうして「楓でぶ騒動」は幕を閉じた。

 この物語(これが物語と呼べるかどうかは疑問だが)についてのその後は定
石通り、皆さんのご想像にお任せすることにする(意訳:考え付かん)。
 ただ、ダリエリがまた少し恨みパワーを蓄えたことだけは確かである。
 

「ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ!!」
 

 でも、多分また千鶴に殺られるんだろうな。
 そういうキャラだ、こいつは。
 
 
 
 
 

「ところで、これってどこが原作(西山英志様作「百万回生きたねこ。」)と
リンクしているの?」

「あ」
 
 

===+++===
ごめんなさい。


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